07:侵略者再び
早朝のヒースロー空港に降り立つと、そこにはバゼラートが1機ぽつんと置いてあった。これで現場へ来いということなのか?
ていうか、昨夜にバゼラートの操縦を憶えてなかったらどうするつもりだったんだ。俺はそんな教習受けてなかったぞ。
しぶしぶバゼラートに乗りこんで上昇すると、行き先はすぐにわかった。水平線付近にある異物、あれがたった一人の人間に撃沈されたマザーシップか。人類は数十メートル程度の小さな隕石まで観測できる技術を持ちながら、なぜこんな巨大なものがこんな近づくまで発見できなかったのか、不思議でならない。これもインベーダーの持つ技術なのか?
しかし、同型機であれば性能も変わらないはずだ。大戦の英雄にできて俺にできないはずはない。やってやろうじゃねえか!行くぜ
意気揚々と突撃した俺だったが、距離を縮めるに従って勇気が弱気になっていった。
………でかすぎる………
なんて大きさだ。距離感もへったくれもない。東京ドームが何個入るんだ。
その時である。下部から生える棘状の先端が光り輝いた。そして輝きは光球を象り、沈下するようにゆっくり降下していく。
「だめだ…間に合わない!」
無線機から絶望の叫喚がこだまする。
な…なんだ…なにが起きるんだ…?
次の瞬間、眼下が炎の海に包まれた。
「うわあああぁぁぁ!」
こ…こんなのに巻きこまれたら、無線機は瞬時に破壊されて叫び声なんか届かないはずなのに…!
い、いや、つっこむところはそこじゃない。落ち着け、落ち着け俺!
視界が晴れると、そこは荒野だった。たったさっきまであった街並みは、跡形もなく消え去っていた。長い歴史を重ねてきたセント・ポールも時計塔も国会議事堂も、一瞬に消え去っていた。
ああ…あ…圧倒的じゃないか…。
こんな調子では、残ったEDF戦力はわずかなものだろう。つまり、一新兵の俺にかかっているのだ。なんてこった。なんでこんなタイミングの悪い時に戦闘ヘリなんかに乗ってるんだ俺!
俺は破れかぶれに□ボタンを押した。2門の30ミリUT機関砲が火を噴くが、しかしマザーシップの直前でシールドに跳ね返されてしまう。なんでだ、なんで効かないんだよ!シールドぐらい突き抜けろよ!やっぱあれか、トリガーじゃなくて□ボタンなのがいけないのか!?
そもそも「最新鋭戦闘ヘリ」のくせに、なんでミサイルの1発もねえんだよ!こんな豆鉄砲、今どき小型の兵員輸送ヘリにもついてるぞ!(ついてないかも)
マザーシップは周りに飛ぶ蝿を察知したのか、小型円盤を発進させてきた。全機が一斉にこっちへ向かってくる。
必死に応戦するも、多勢に無勢、そしてこの操縦性。どう考えても勝ち目はない。
くそう…俺もここまでか…
ていうか、誰が蝿だ!
しかし、俺だって日本男児だ。ビッチ野郎に教えてやる。日本には神風があるってことをな!
ミサイルがなけりゃ、自分がミサイルになりゃいいだけの話だろ?
弾数は1発しかないけどな!
奴の弱点はどこだ。そういえば、似たようなシーンを映画で見たことがある。あれは円盤の発進ハッチだったよな。似たようなっていうか、まんま同じだ。
そういえば、似たようなシーンをアニメでも見たことがある。あれも機体下部への特攻だったっけ。となりゃ、言うべき台詞はひとつってわけか…。
悲しいけど、これ戦争なのよね。
俺は空飛ぶ頭でっかちのビ○グザムに決死の突撃をかけた。
まだまだーっ!
ドグォオオォォン!
爆発しながら四散するバゼラートと、機体から放り出された俺。
まるで無傷のマザーシップ。
神風は吹かなかった。
そりゃそうだよな。
ここ、ロンドンだもんな…。
自由落下する俺にとどめを刺そうと執拗に追いかけてくる円盤ども。
ゆっくり流れる時間、かけめぐる走馬燈。マラソン大会でこっそり近道したら1位になっちゃったこと、好きなあの子の机に彫刻刀でブスって彫ったこと、EDFの入隊試験でカンニングしたこと、………、あはは…ろくな思い出がねえや…。
無事に着地した俺は、すぐさま反撃体勢に移った。
今なにかすごく大事な物理法則をスルーしたような気がするが、そんな些細なことに構っている余裕はない。俺はこう見えても竹槍で航空機を撃墜する伝説の民族の末裔だしな。
マザーシップからは次々と円盤が発進してくる。猛烈な十字砲火の中、俺の怒号が響き渡った。
EDFがなぜ歩兵中心なのか、教えてやる!
そうである、バゼラートから俺を降ろした時点で奴らの敗北は確定したのだ。
みるみるうちに撃墜されていく円盤。
焦土と化したロンドン。
残骸となって惨めな姿を晒す円盤。
その傍らには、俺の死体が転がっていた。
Mission Failed!